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出会いは「いのちなりけり」。直木賞作家 葉室 麟

天神スカイホールのリニューアルオープンに先駆け、
2015年9月30日に掲載された新聞広告に登場していただいた直木賞作家の葉室 麟さんに、
天神の思い出などをお聞きし、天神スカイホールへのメッセージもいただきました。
このホームページでもご紹介します。

天神スカイホール(当時の福岡国際ホール)が誕生してから40年です。
当時の記憶は?

葉室 西南大学の学生だった頃に、西日本新聞でアルバイトをしていたんです。4年生の時に、この建物ができたから、天神や西日本新聞会館には毎日のように来ていたんですよね。記者になってからは福岡国際ホールの喫茶でよく打合せをしてましたね。

当時の天神のまちは葉室さんにとってどんな印象でしたか?

葉室 当時の天神は落ち着いた商人のまちという感じで、なんだか品があった気がします。いまが悪いわけじゃないけど、もう少しのんびりしていて、落ち着いていたと思います。だんだん東京に似てきた。
大都市って、ただ仕事している都市だったり、若者が中心の消費のまち。
昔の天神は歩いてる人のスピードが違っていた。
もっとゆっくり歩いていた。もっとくらしが自分たちのものだった。僕はおじいちゃんやおばあちゃんが孫と一緒に買い物しているようなゆっくりしたまちが好きだな。
路面電車が走っていたことは大きいですね。ゆっくりしていたのは電車のせいかも。走った方が、電車より速いくらい(笑)

40年前のイメージを受け継いでいくことが天神スカイホールのテーマなんです。
ゆったりした時間が過ごせる空間を目指したいです。

葉室さんが時代小説を書く理由を教えていただけますか?

葉室 日本は敗戦で自分たちを見失った気がする。
時代小説を書いているのは、見失ったものを見つけたいという気持ちです。
歴史の中で生きてきた人々は我々とDNAがつながってる。
だからその人物を描くと、素直に納得できたりする。
たとえば、人を愛しているとか、人を信じているとかを現代の小説で書くと、嘘っぽく見えてしまうけど、時代小説の枠の中だと「そうだよね」と納得できる。
納得できるということは自分の中にそんな気持ちがあるということ。
自分も人を愛したいし、人を信じたい気持ちが自分の中にあるということですよね。
そういう意味で自分が素直になれる時間を求めて時代小説の枠組みの中で書いてるところはあるかなと思う。

小説家としての本格的なデビューは50歳を過ぎてからとお聞きしましたが?

葉室 50歳になって、あらためて小説を書きはじめたのは、残り時間を考えるからですよ。
何かを残したいと普通みんな思うし、僕もそう思って、小説を書きはじめた。
残り時間が少ないと思ってやってみたら、前向きなやり甲斐が見つかる。
頑張るとそれなりの時間の充実があることがだんだんわかってきて。
いまは60代だけど、60代って、使いでがあるなと思ってます。
サラリーマンだとついつい定年を意識してしまうけど。
最後まで自分が終わったと思わなければ、終わらないんですよ。

新聞記者であったことは小説家としてのいまに影響を与えていますか?

葉室 記者と小説家の使う筋肉は違うけど、記者の時代は政治家から暴力団まで、いろんな人に出会ってきた。
たとえば犯罪者にも会うわけです。
ニュースだけ見ていたら、犯罪を犯した人は悪い人だと思うわけですが直接会って取材すると、その人の人生にもいろんなことがあったことがわかる。
人を多角的にみて、人を一概に決めつけない。
いい人と言われる人もよくない側面があるのを見てきた。
単純に表面にあらわれていることだけで人を見ないということがある種のリアリティを生み出してくれる。
新聞記者は、事実を書くことで真実に近づいていく職業だと思う。
しかし事実というものは、積み重ねていってもなかなか真実を描けない。
僕はそこに虚しさを感じるタイプだったので、小説家になったのかも。
そうじゃないという人が、いわゆるジャーナリストだと思う。
僕の中では、フィクションの中で、自分なりの考えを書いて読む側の心に響くようなら、それは真実だと思う。

「出会い」は大きなテーマですか?

葉室 最初に直木賞候補になった「いのちなりけり」は和歌を主軸にした小説。
「春ごとに 花のさかりはありなめど あひ見むことは いのちなりけり」
春が来るたびに花は咲くんだけど、それに出会えるということが「生きてる」ということ、といった意味なんですけど。
人生の意味って、凝縮してしまえば、誰と出会うかだと思う。
誰と出会ったかに尽きると思いますね。
人間は自分一人で生きて、いまにたどり着いた訳ではないと僕は思ってる。
僕自身の青春時代も、多くの人と天神であった。
先日天神で、「葉室さんですか?」って声をかけてくれた同世代の女性がいた。
「高校時代に電車で、葉室さんに会ってました」といってくれた。
葉室は本名じゃないけど、当時のこと覚えていてくれる人もいるんだ。
出会いって、不思議ですよね。縁ですよね。

天神の中心にある天神スカイホールって、広い意味での交流とか、つながりとか、人と人が縁を結ぶ場所になるといいなと思いますね。

葉室さんに天神スカイホール 開業日の日付でサインいただきました。

ありがとうございました。
生まれ変わった天神スカイホールは、
新しい出会いの場を目指したいと思います。

直木賞作家 葉室 麟
1951年北九州市生まれ。 西南学院大学卒。久留米在住。
新聞記者を経て、50歳で文壇デビュー。2007年「銀漢の賦」で松本清張賞受賞。
2012年 直木賞を受賞した「蜩ノ記」は、役所広司主演で映画化。