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日下部誠 総料理長の食紀行 #07

原点は対面販売。 西さんのつくるミニトマトの魅力。
[Tomato farm 西農連]福岡市西区千里字柳

食べるソースに想いを寄せて

(写真:つまんでご卵 仔鴨のスモーク、ミモレットと軽くホワイトバルサミコでマセレした西農園カラートマトのパレット仕立て)

ある日のディナーのひと皿。コースのはじまりを彩ったのは、みずみずしく、そして燦燦と降り注ぐ太陽のようなお料理でした。お皿の中央には、トロッと濃厚な『つまんでご卵』の半熟卵と絶妙な塩味の仔鴨のスモーク、軽い苦みを伴ったいくつもの糸島野菜がふんわりと盛られています。

何より目を引くのは、円を描くように散りばめられた9種類のミニトマト。色とりどりのミニトマトが揃うなか、薄緑色の完熟ミニトマト『ミドリちゃん』は糸島産『またいちの塩』でシンプルに味わう。甘味も水分量もことなるその他のミニトマトは、軽くホワイトバルサミコをまとわせソース代わりに口にする。ひと口毎に増していく甘味。徐々に訪れる充足感。ミニトマトの種のまわりの渋みが、他の食材の味を引き立たせます。このお料理は、西農園のミニトマトだからこそ生まれたひと皿です。

西さんしかつくれないミニトマト

(写真:西 正剛さん/「熟した際、光を宿しているのがおいしい」と教えてくれました。)

今回ご紹介するのは、10種類のミニトマトを栽培するTomato farm西農園の西正剛さんです。農園に足を踏み入れると、思わず「キレイ」とこぼしてしまいました。

真っ先に目にするのは、太陽の光を受けて輝くミニトマト。そして、手入れの行き届いた農園の景色。

入口や通路はもちろん、栽培槽の細かな部分に至るまで清掃と整理が成されています。

西さんにその印象を伝えると、「当然のことをしているだけなんですけどね」と若干はにかんだ様子。

さらに茎を見てみると、余分な芽を摘む『芽かき』が細部に至るまで行われていました。

これを放っておくと実に十分な養分が行き届きません。風通しや日当たりも悪くなり、病気の原因にもなります。

とても地道であり大変な作業を徹底している畑の様子は、西さんの人柄が表れているようです。

(写真:日下部総料理長と西さん/日下部総料理長曰く「絶妙な水分量としっかりとしたタンニンを思わせる渋みが素晴らしい」)

「栽培する上で最も気を配っていることは何ですか」と尋ねると「与える水の量」と返ってきました。

1日の水やりは基本5回。しかし、前日までの天候によってその回数を変えるそうです。また、一度に与える水量にも注意を払われております。

これも、日々生育状況を見極め、ミニトマトと向き合っているからこそ出来るのではないでしょうか。

西さんは『トマトの声を聴く・トマトの身になる・トマトを支える』と師から教わったと言います。

そして、「健康に育ってほしいんです」とつづけました。

原点は対面販売

西さんは、農業の傍ら街角で対面販売を行っています。そもそも飲食店に勤めていた西さん。当時からトマトが大好きだったとか。

ある日、偶然出会ったトマトに衝撃を受け、そのトマトの販売員の道へ。

徐々に顔見知りのお客さんも増えてきた頃、「このトマトじゃないと駄目なの」や「おかげで子供がトマトを食べられるようになった」と言う嬉しい声が。

そんな毎日が続くにつれ、自分自身でトマトをつくりたいと思いはじめたそうです。

「自分が育てたトマトで喜んでもらいたい・・・」と強く思うようになったと話します。

(写真:西さんご家族/家族で栽培。穏やかな空気が流れる理想の環境。)

そんな矢先に就農のチャンスに巡り合いました。

「この仕事に出会えてラッキー」と西さんは声を大にして言います。農業をはじめた今でも対面販売を続けているのは、お客さんの顔が見たいから。

「お客さんの声を聴いて生産する。これが本来の商売だと思っています」と目を輝かせています。

日下部総料理長は、西さんのつくるミニトマトの味を「活力」や「ほとばしる」と表現します。まさに西さんのイメージにぴったりだと感じます。

西さんとの会話が続く中、日下部総料理長は「小さくて、凝縮感のあるストロベリートマト(食用ほおずき)をつくって欲しい」とリクエスト。

西さんは瞬時に『味』や『見た目』、『香り』を想像して興味が湧いたらしく、「やります!」と即答。「おもしろそう」ともこぼしていました。