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ホテルマリノアリゾート福岡 日下部誠総料理長の食紀行 #03

いつも幸せ。みんなで幸せ。そんな料理の秘密をお届けします。

「料理の根底を支えるのは食材のクオリティ」と知る日下部 誠 総料理長は、食材の様子を自分の目で確かめ、生産者のみなさんと語らい合い、食材が生まれる背景までを理解するために、今日も食材のうまれる場所を訪ねています。

“日下部 誠総料理長の食紀行”では、生産者と料理人が抱く食材への真摯な想いをご紹介いたします。

糸島生まれの豆腐と豆乳が料理人の想像力を刺激する

 フランス料理に豆腐。と聞くと、不思議でしょうか。しかし日下部総料理長にとって、その土地の伝統的な食材に刺激を受けてのメニュー作成はとても自然な流れなのです。

 朝食には豆腐をオリーブオイルの苦味と塩で引き締めた一品が。コース料理には豆乳ベースのスープや、フルーツに豆乳エスプーマ〔泡〕を添えたデザートも登場します。豆乳は乳製品より軽やかな口あたりで、食後の胃もたれも心配ありません。あっさりと脂肪分控えめな和食を食べて育った我々に寄り添う、フランス料理とも言えるのです。

 このようなメニューが次々と誕生したのは、日下部総料理長がこれぞと思える豆腐を製造している「とうふ家 酒瀬川」に出会えたからです。お店で出迎えてくれたのはオーナーの瀬里芳樹さん。糸島市でハム造りに携わり、その後もこの地を盛り上げたいと、2010年、「とうふ家 酒瀬川」をここに開店させました。

 「豆腐造りの主役である大豆は、糸島産フクユタカのみを使います。大豆からしぼった豆乳を凝固させる”にがり”は『またいちの塩』特製。玄界灘に突きだした福の浦(糸島市志摩芥屋)の海水100%でつくられた天然にがりなんですよ」と瀬里さん。

 糸島の大地が育んだ大豆。糸島の海の恵みであるにがり。ふたつが結ばれておいしい豆腐がうまれるのです。

おからをしぼりきらないので雑味がない豆乳。ここへにがりを入れて固めていきます。
糸島市のにぎわいづくりにも尽力する瀬里さん。その想いの結晶が豆腐になりました。

食材のふるさとは雷山の水がめぐる畑と海

 日下部総料理長は「何も知らずに『酒瀬川』さんの豆腐を初めて口にした時、そのやさしい甘味、大地を思わせる豊かな大豆の香りに驚き、すぐに瀬里さんのもとを訪ねました。糸島産の大豆とにがりで、この豆腐を完成させたというストーリーが、フランス料理でいう”テロワール”と重なりましたね」と話します。

 ”テロワール”には、料理をより美味しくするために、「同じ土地の食材をひと皿の上に調和させる」という考え方が存在します。その発想には瀬里さんもうなずきます。

 「雷山山系の水が、糸島の大地を潤し、大豆を立派に育てる。水がたどりついた海からは、素晴らしいにがりがとれる。糸島は、水質がとても良いのでしょうね。最近、加布里湾のはまぐりの評判もいいとよく耳にします。きっと栄養豊富な水が、山から湾に流れ込んでいるからだと思います」。今度は、日下部総料理長が強くうなずく番です。

 瀬里さんと語り合うひと時には「素晴らしい食材と生産現場を紹介するのも料理人の役割だ」。そんな意志がにじんでいました。

 豆腐の製造現場をのぞくと、朝4時から豆腐を造っていた坂本工場長の姿が。京都で修業した豆腐職人から豆腐造りの技術をみっちり学び、今は「とうふ家 酒瀬川」の味を一手に担っています。「食べてみてください」と手渡してくれたおからの甘くておいしいこと。豆乳は色が濃く、豆乳が苦手な人も飲みほせるほどまっすぐな味。できあがった豆腐は、繊細でとろけるような口あたり。豆腐の概念が変わります。

 「食材のチカラを活かした調理法でお客様を驚かせたいですね」と日下部総料理長。豆腐とフランス料理を融合させた美味なるサプライズは、天神スカイホールでどうぞ。

水を張った流しで豆腐を切る坂本工場長。赤ちゃんをあやすように優しく豆腐を扱う。
約20%の水分を残したまま、豆乳をしぼるのをストップするおから。美味!
まだ温かいおからを味見。豆の甘みがほわんと広がり、味付けなしでもおいしいほど。

豆腐工房・お食事処
とうふ家 酒瀬川
糸島市南風台8-4-7
TEL092-332-9541